3章:ラウンド別の知財マイルストーンと落とし穴
投資ラウンドによって知財のマイルストーンは異なる
投資ラウンドによって、ベンチャー企業の知財戦略のポイントは変わってくる。
投資家は投資に当たってマイルストーンを設定している場合、知的財産についてもマイルストーンを決めておくとよい。
まず、本書における各ラウンドのイメージを下記の図で表した。
例えばマイルストーンは、以下のように整理される。
ラウンド | マイルストーン | 知財マイルストーン |
---|---|---|
エンジェル ラウンド |
・要素技術・コア技術の創出戦略を立案し、これを遂行する体制を構築する。 | ・研究の商用化に向けて研究開発や知的財産活用の方向性を明確化する。 ・大学と企業との共同研究契約の交渉において成果活用の自由度を確保する。 |
シード ラウンド |
・PoC(概念実証)を完了させるとともに、要素技術・コア技術が適用/転用可能な市場・製品を絞り込む。 | ・開発によって研究成果の商用可能性を高める。 ・研究成果の基本技術を商用化の観点から権利化若しくは秘匿化する。 ・大学とのライセンス契約の交渉において研究成果活用の自由度を確保する。 |
シリーズA ラウンド |
・PoC(概念実証)を経た要素技術・コア技術をもとにピボットを行い、実用化・量産化を見据えたビジネスモデルを構築・高度化させる。 | ・ビジネスモデルと知財権・ノウハウの範囲を合致させる。 ・ピボットに対応して、追加の技術・知財をスピーディに獲得する。 ・CTO・従業員からアイディア・発明が継続的に創出されるマネジメント体制を構築する。 |
シリーズB ラウンド |
・実用化・量産化を見据えた成長戦略を軌道に乗せ、事業を拡大しつつ、事業会社とのアライアンスやIPO等のEXIT戦略を立案する。 | ・製品化に必要な技術・知財(製造技術、UX、デザイン等)をポートフォリオとして確保する。 ・事業会社との提携契約交渉において、成果活用の自由度を確保する。 ・競合に対抗するため知財を活用する。 |
シリーズC ラウンド |
・EXITに向けた経営基盤の強化(マネジメント機能強化、オペレーションの効率化等)を進めながら、EXIT後の更なる成長戦略を立案する。 | ・EXITに向けて、他社権利の侵害リスクを減らす。 ・EXITに向けて、ステークホルダーに技術・知財を分かりやすく説明する。 ・海外展開に向けて、グローバルな知財・標準化戦略を再構築する。 |
落とし穴事例
-
事業計画の中に知財戦略がないビジネスと知財の対応
-
コア技術の出願前に学会・論文発表や共同研究先への開示を行ってしまい、基本特許を取れない大学ビジネスと知財の対応
-
共同研究契約の条件で知的財産の活用に制約がつき、大学からライセンスできなくなる大学契約事業会社
-
大学で出願した基本特許はあるが、商用化の観点から権利化されていない大学ビジネスと知財の対応
-
大学とのライセンス契約の条項に課題があり、起業後の企業価値の向上やEXITに問題が生じる大学契約EXIT
-
知財がビジネスモデルと対応していない大学ビジネスと知財の対応EXIT
-
持ち株比率が低いためにCTOが発明を出し惜しみし、継続的な知的財産の創出が難しくなるガバナンス
-
基本特許は確保したが、他社に周辺特許を押さえられてしまい、事業がスケールしないビジネスと知財の対応事業会社
-
IPO直前に競合他社から侵害警告・訴訟を受けるEXIT
-
海外展開を目指しているが、知財・標準化戦略が国内市場向けに留まっている海外ビジネスと知財の対応
-
EXITシナリオを自社との協業だけにフォーカスし過ぎてしまうCVCEXIT
-
既存業域の投資では自前主義や大企業の知財管理の観点により、評価の客観性が不足するCVC
-
新規領域への投資では事業部・知財部の評価能力、ハンズオン能力が不足するCVC