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IPASを通して見えた知財メンタリングの基礎

Day2 下準備

顔合わせはして、一度会話はしたものの、まだ研究開発型スタートアップとの信頼関係は完全に築けていないのが第2回メンタリングの時期です。こういった状況下で必要な対応事項とは何でしょうか。

Story

 「近藤先生、いつも大変お世話になっています。片桐です。この後、ZF社さんに競合に対する優位性に関する追加質問をメールしようと思うのですが、近藤先生からも何か追加質問はありますか?バラバラと質問するよりまとめたほうがいいかと思いまして。」
 「片桐さん、ご連絡いただきありがとうございます。はい、私も現在出願に向けて準備中のクレーム案や、帝都大とのライセンス契約書案を事前に見せてもらいたいです。」
 初回メンタリングは、ZF社のピッチ資料を基に仲川社長が話したいことを話してもらった。PRとしてのZF社の概要は把握できたが、実際のところはまだわからないことだらけだ。第2回メンタリング前には支援方針を検討するために必要な情報を集める必要があるということで、片桐と近藤の意見は一致していた。
 「承知しました。では、後ほど近藤先生をCCに入れて、ZF社にメールしますね。」  「さて、質問の件は、これでいったんOKだ。あとは、メンタリングの全体像を設計して、資料を持っていくか。あとは、想定顧客へのインタビュー調査の企画も仮で出してみるか。」
 初回メンタリングの説明を受け、片桐は一つの課題仮説を持っていた。それは、ZF社が想定顧客である商店のニーズを直接把握できていないのではないかという課題仮説である。
 「メンタリングのどこかで、中心市街地再生コンサルタントにインタビューするのもありだな。」

解説

・具体的に必要な資料や情報と必要な理由を示して、能動的に情報を得る
・小さなことでもよいのでアウトプットを出す

1.能動的に情報を引き出す
 メンタリング初期に研究開発型スタートアップが提供する資料は、研究開発型スタートアップがピッチやプレゼンテーションの際に汎用的に用いている資料である傾向にあります。
 ただ、このような資料は、わかりやすく作られている一方、PRを目的としているため情報が不足している場合があります。また、研究開発型スタートアップ側もどのような資料や情報を専門家に示したらよいのかわからない場合もあります。
 そのため、専門家側からメールや電話で具体的に必要な資料や情報の提出を依頼する際には、なぜそれらが必要なのかを説明して、メンタリングに必要な情報を得ていく必要があります。

2.アウトプットを出す
 研究開発型スタートアップとの信頼関係を築くために最も重要なことは、初期段階で小さくてもいいので専門家側から何らかのアウトプット(成果)を出すことです。
 具体的には、初回メンタリングを踏まえた全体設計、課題仮説、関連特許一覧、インタビュー調査の企画、顧客候補一覧等どのようなものでも構いません。とにかく、『求められたものを出す』ではなく、専門家が今の研究開発型スタートアップに必要だと思われることを『提案する』ことが重要です。

Day2 知財活用の知見のインプット

研究開発型スタートアップの中には、知財の活用について基礎的な知見を持ち合わせていない企業も存在します。こういった研究開発型スタートアップに知財活用の知見をインプットすることも重要です。

Story

 「ありがとうございます!!!今まで“知財の活用”って、言葉と何となくの概念だけで考えていましたが、どのように活用するのかや、そのためにどのような行程で知財を取得すればいいのか理解できました!正直、大学の時は教授の知り合いの弁理士さんにお任せだったので、知財ってなぜ必要なのか、ピンときてなかったんですよね。」
 近藤は第2回メンタリングの冒頭で、知財メンタリングで行うこと、ビジネスとの整合性、特許出願に至るまでのステップ、代表的な活用事例等を紹介した。

 これは、前回のメンタリング後に片桐とランチをしながら決めた事項だ。近藤の経験上、研究開発型スタートアップと言えども、技術のことには明るいが、その技術を知財によって守り、稼ぐところまで理解しているスタートアップは少ない。メンタリング初期に、知財活用の全体像を研究開発型スタートアップにインプットすることは、今後のメンタリングの効果を高める上で効果的だと近藤は考えている。
 「では、次に、今の知財活用の基礎を踏まえて、現在御社が帝都大と交渉しようとしている契約書案を見てみましょう。まず、第6条、実施許諾について・・・」
 知見だけではなく、実際にモノを見ながらインプットしてこそ、活きた知財のインプットとなると近藤は考えている。

解説

・基礎的な知財の仕組みをオーバービューすることで、メンタリングの質向上を図る
・請求項案や契約書案を一緒に見ながら、活きた知財のインプットを行う

1.知財の基礎的知見をインプット
 メンタリング初期に研究開発型スタートアップが提供する資料は、研究開発型スタートアップがピッチやプレゼンテーションの際に汎用的に用いている資料である傾向にあります。
 既往調査では、研究開発型スタートアップの中で知財戦略を構築している企業は2割にとどまっているという結果が出ています。この調査結果からも分かるように、研究開発型スタートアップと言えども出願書類を作成するために専門家を活用することは理解できているものの、知財戦略構築の検討方法やそのために専門家を活用することまでは、イメージできていないことが多い傾向にあります。
 メンタリングの初期段階で、研究開発型スタートアップに対して、単なる特許出願だけでなく、特許のもつ特性やその活用方法・戦略等に係る基本的な知見をインプットすることで、その後のメンタリングが円滑かつ効果的になることが期待できます。

2.実事例を一緒に確認する
 座学的に、知財メンタリングの概観を研究開発型スタートアップにインプットするだけではなく、請求項案や契約書案の読み込みを通じて、実践的に知財活用を習得してもらうという手法もあります。
 実際に、請求項案や契約書案を見ながら、「Aという書き方の場合結果はX、Bという書き方の場合結果は Yとなることが想定されますが、社長としては、どちらを望みますか?」というように、一つ一つ理由を説明しながら知財戦略を作り込んでいくという手法が有効です。また、最初のうちは、まだ研究開発型スタートアップ側も慣れていないことが想定されるため、『AorB』というような問いかけを重ねることが有効であると考えられます。

Day2 理解を深めて課題仮説を立てる

メンタリングも2回目となり、メンタリングの全体設計やそのための課題仮説を立てる段階になります。ただし、情報不足・理解不足な部分も多くある状況なため、まだ理解に重きを置きます。

Story

 「なるほど、御社の技術は小店舗でも作業できるコンパクトさと、煩雑に商品が置かれていても認識可能な画像認識技術が競合優位性だということですね。前回の資料で、他社と比較した優位性の表がありましたが、コンパクトであることが、顧客に対してどう優位に作用するのでしょうか?」
 「コンパクトという点で特徴が似ているBQ社とは、どの程度コンパクトさに差があるのでしょうか?また、それによって成し遂げられることはどのようなことなのでしょうか?」
 「たとえば、大量に販売しようと思うと、コンビニや都市型の小規模スーパー等で置いてもらうというのが考えられますが、その際に、御社のサイズ感はどう効いてくるのでしょうか?」

 片桐も近藤も、ZF社が競合優位だと言っている「コンパクトさ」と顧客の価値について、もっと具体化できるのではないかと考え、さまざまな角度から壁打ちを行った。
 確かに、追随するBQ社に比べて半分程度の大きさを実現できたというのは、技術的にはすごいことなのだろうが、ここまでコンパクトでないと達成できないことがあるのか?それによって顧 客が得られるメリットは何なのか?売り切りなのかリースなのか等、まだ詰まっていないことが多い印象を受ける。
  「もしよろしければ、知り合いに中心市街地再生を手掛けているまちづくり会社の方がいるので、その方に御社のビジネスを説明していただけませんか?そうすると、だいたい顧客がどういったことを求めているのかがわかる気がするんです。」

解説

・粘り強く何度も何度も壁打ちをする
・顧客候補への説明を聞く等して理解を深める


1.知財の基礎的知見をインプット
 既往調査では、研究開発型スタートアップの中で知財戦略を構築している企業は2割にとどまっているという結果が出ています。この調査結果からも分かるように、研究開発型スタートアップと言えども出願書類を作成するために専門家を活用することは理解できているものの、知財戦略構築の検討方法やそのために専門家を活用することまでは、イメージできていないことが多い傾向にあります。
 メンタリングの初期段階で、研究開発型スタートアップに対して、単なる特許出願だけでなく、特許のもつ特性やその活用方法・戦略等に係る基本的な知見をインプットすることで、その後のメンタリングが円滑かつ効果的になることが期待できます。

2.顧客候補等への説明を聞いて理解する
研究開発型スタートアップの技術やビジネスを理解する一つの手法として、他の主体への説明を横で聞くというのもあります。
例えば、研究開発型スタートアップが顧客候補や投資家等に説明する場に同席し、説明を横で聞いていると、研究開発型スタートアップが何に力点を置いているのか、自分たちの強みをどこだと感じているのかがわかってきます。また、顧客候補や投資家からも有用な質問が得られ、そこへの研究開発型スタートアップの回答の仕方等を把握することで、さらに研究開発型スタートアップを理解できると考えられます。



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