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IPASを通して見えた知財メンタリングの基礎

Day3 ビジネス上の問題箇所を特定する

IPASでは、3回目くらいで、研究開発型スタートアップのビジネスの問題箇所を特定していく傾向 にあります。特に、顧客候補や顧客候補へ訴求する自社の価値を特定できていない場合があります。

Story

 「高齢夫婦の商店がそこまでして店舗の延命を図りたいと思うかなあ・・・。もしいたとしても、運転資金の観点からすると、リースとかレンタルとかの仕組みの方がいいかもですね。あとは、商店街や中心市街地にレンタルするとかだと可能性はあるかもしれませんが・・・。確かに棚卸し作業は大変ですが、やはり後継者不足というのが、商店廃業の一番の課題ですからねえ。」
 先日、仲川と片桐は、中心市街地再生コンサルタントの植田に話を聞きに行った。しかし、正直なところ、あまり良い感触を得られなかった。
 片桐が抱いていた課題仮説「顧客設定の再設定」が明確となり、それは、仲川にも認識された。
 「仲川さん、再度御社の強みを確認していきましょうか。御社の強みは、『狭い通路でも稼働できるコンパクトさ』、『障害物の多い通路内でも軸がぶれないバランスの良さ』、『細かな障害物を正確に認識できる画像認識技術の高さ』ですよね。これで解決できそうな顧客の問題は、どのようなものが想定できますか。」片桐はホワイトボードに企業の強みを記載しながら仲川に語り掛けた。
 「例えば、産業ロボットとの技術面の競合優位性も勘案するといいのではないでしょうか?」
近藤も技術の視点から考えるヒントを提供した。
 「そうですね・・・。物流倉庫で使用できるかな?新聞を見ていると、在宅勤務が増えて宅配が増加した影響で物流倉庫が足らないらしく、各社適地の確保に苦労しているそうですね。これだけコンパクトならば、通路幅が削減でき、物流倉庫の単位面積当たりの保管量が増加するのではないかと思うのです。」
 「確かに!いいですね。他はいかがですか?」
 片桐は、仲川が自らビジネス面の仮説を検討できるよう促した。

解説

・顧客の価値にどう訴求するかは、時間をかけてでも明確化する
・ヒントを提示して、新たな顧客候補を考えてもらう


1.顧客へ訴求する価値の明確化
 研究開発型スタートアップの中には、高い技術力を持つものの、それをどのように顧客が抱える課題解決に活用するのかが明確化できず、価値を十分出し切れていない企業も存在します。
 その際、さまざまなフレームを活用して、自社の強みと顧客が抱える問題を研究開発型スタートアップと共に結び付ける作業も有効となります。また、技術面の競合優位性を再度見直すことで、新たな価値に気づくこともあります。もちろん、専門家側も様々なアイデアやヒントを出し、顧客の候補を絞っていくというやり方もあります。また、競合優位性や業界のポジション図の作成によって、顧客への価値を具体化していく手法も考えられます。

2.新たな顧客候補の想定
 新たな顧客を想定する必要に迫られた際は、研究開発型スタートアップに考えてもらうようにしましょう。  その際、検討の手順をメンタリング内で実際に見せる方法や、具体的な業界の例示を通じて、研究開発型スタートアップが自ら検討できるようなヒントを示すことが有効です。  また、市場規模や競合の情報等、調べておくべき事項をフレームにして提示し、研究開発型スタートアップが記載した内容を基にメンタリングでブラッシュアップすることで全員の認識齟齬を防ぐことも重要です。

Day3 想定顧客及び価値提供を練り直す

顧客設定に課題がある場合、専門家はどのような行動をとればいいのでしょうか。ここでは、代表 的な取組についてご紹介します。

Story

 「結論的には、物流倉庫、商店街、図書館、飲食店の4分野で当社の製品が使えるかなと考えています。起業の原点は個人商店なので、商店街で当社の製品が使われているのはいいなと思いますが、改めて考えてみると、市場規模的には少し心許ないなと感じています。」
 仲川は、前回のメンタリングで宿題となっていた顧客候補について一通り説明した。  「ありがとうございます。確かに、顧客の問題の大きさや市場の規模等を考えると、物流倉庫と飲食店が良いかもしれませんね。近藤先生いかがでしょうか?」  「そうですね、産業用ロボットと比較した場合に、多様な物体に対応できるという力制御に優位性があるというお話だったので、物流倉庫の方が、御社の競合優位性が活かせそうですね。」

 片桐と近藤は、ZF社がまだ顧客を絞り切る段階ではないと認識し、ZF社が最も早期に上市したい分野でケーススタディすることで、知財戦略構築の基礎をZF社にインプットすることとした。
 「はい、飲食店だと料理を運ぶ際のリスク等が想定されるので、少し事業化までは遠いのではと思います。そこで、まずは、物流倉庫から事業化を検討したいと考えています。」
 「では、次に、物流倉庫のうち、どのような物流倉庫を狙っていくのかを考えてみましょう。物流倉庫のビジネスモデルやコスト構造等を調べて、どのような物流倉庫であれば御社の強みが刺さるのかを考えてみてください。」
 片桐は、仲川に新たな宿題を出した。

解説

・顧客が定まらない時は、有力な業界を選定してケーススタディする
・投資家への説明を前提に、セグメントを詳細化して顧客像をより明確化する


1.ケーススタディに切り替える
 メンタリングの中では、顧客が定まらない場合も発生します。
 その場合は、最も有力な顧客や研究開発型スタートアップが最も対象としたい顧客をスタートアップと協議し、最も早期に参入すべき業界を対象として、知財戦略構築のケーススタディを行うことが考えられます。
 なぜなら、知財戦略の策定の他にも、研究開発型スタートアップが今後知財戦略を再構築し直せるような
知見をインプットすることも専門家の役割だからです。そのために、ある特定の顧客の分野について、実際にマネタイズポイントを具体的に構想したうえで、知財戦略を構築していくことで、研究開発型スタートアップは実践的な経験をすることができます。  なお、技術が先端過ぎてまだ市場ができていない場合も存在します。その場合は、類似のビジネスパターンから類推する、開発への投資を呼び込むための戦略を練る等の対応も考えられます。

2.顧客像の明確化を促す
 顧客や対象としたい市場を明確化することは、ビジネスの実現性を上げるためにも資金調達のためにも有効です。
 例えば、単に顧客を「アクティブシニア」とするだけでなく、「より活発に動きたいアクティブシニア」とすることで、ターゲットとする顧客の像が明確化し調査やマーケティング等が効果的なものになります。
 また、これにより、目指す市場占有率の説明も変化します。例えば、「アクティブシニア」だと母数が大きいため5%程度の占有率目標となるが、「より活発に動きたいアクティブシニア」だと33%と説明できるかもしれません。
 投資家目線では、顧客が明確でさらに高い市場占有率が期待できると認識してもらえる場合があります。

Day3 チーム内の立ち位置の変化

研究開発型スタートアップのビジネスの理解も進んでくると、アウトプットを絞れるようになります。この辺りで、各メンターの立ち位置や役割に変化が出てくる傾向にあります。

Story

 「今日もお疲れ様でした!」  第3回メンタリング後、片桐と近藤は、ZF社近くのいつもの定食屋でランチをしていた。
 「やっと、ビジネスの方向性が明確化してきましたね。確かに、仲川さんの案のように、物流倉庫は近年オートメーション化の要請が強いので、とっかかりのビジネスとしてはいいかもしれませんね。ちょっと競合が多いところはありますが、ケーススタディとしては良い分野だなと感じます。」
 「ありがとうございます。次回以降は、いよいよ近藤先生の知財メンタリングが本格化しますね。アウトプットとして、近藤先生の見立てはいかがですか?ビジネス的には、後はどこと組むのかといったアライアンス戦略と、全体的なロードマップを詰めるところかなあと思っていますが。」
 「そうですね。おそらく、物流倉庫についてはまだZF社もほとんど調べられていないと思うので、 ZF社のコア技術を明らかにしつつ、先行技術調査を行って侵害がないかや業界の戦い方の把握を行っていくのかなと考えています。その上で、どの部分で知財をとっていくのかを定められればと思います。」
 「なるほど、では、ロードマップには、上市の時期を仮設定しつつ、今後1~2年程度の開発及び知財のとり方と生産・販売を連動させるようにしましょうか。」

解説

・メンター間でのアウトプットイメージの認識合わせを行い、理想のビジネ スプランを草案する
・メンタリングにおける各メンターの立ち位置を変化させる


1.アウトプットイメージの認識合わせ
ビジネスの理解が進み最も優先すべき分野を特定したら、メンター間でメンタリング外で打合わせを行う 等して、その分野における理想となるビジネスプランを草案することが有効です。
併せて、IPASのメンタリングにおいて解決すべき課題の優先順位、支援の範囲、アウトプットイメージ やお互いの役割に関する認識を共有することも重要です。
研究開発型スタートアップは多くの課題を抱えている場合もありますが、すべてを一度に解決することは 難しいため、話題が拡散し過ぎないように重大な課題をチームで集中的に解決するよう心がけてみてくださ い。

2.メンターの立ち位置の変化
 これまでは、研究開発型スタートアップのビジネスの理解や詳細化が中心テーマだったため、主に、ビジネスメンターが主となってメンタリングを進めてきたかと思います。これ以降は、いよいよビジネスに連動した知財面での支援にテーマが切り替わってきます。そのため、おのずと2人のメンターの立ち位置が変化していきます。
 具体的には、これ以降、知財メンターが主にメンタリングを進めることになり、ビジネスメンターは全体を俯瞰的に見ながらメンタリングを進行していくといった立ち位置に変化します。
 一般的には、ここまでのメンター間のやり取りで、お互いそれほど意識せず自然と立ち位置が移行するかと思いますが、事前に意識しておくことで、さらにメンター間のやり取りは円滑化されると考えられます。
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