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IPASを通して見えた知財メンタリングの基礎

Day5 他社特許への対応

メンタリングの途中では、様々な問題が発生する可能性があります。その場合、専門家はどのように対応するとよいのでしょうか。

Story

 「今日は、まず、先日調査会社から上がってきた先行技術調査の結果をみんなで見てみましょうか。その後、前回最後に仲川社長から情報提供いただいた米国で出願されているBonne Chance Bien社(以下「BCB社」)の特許について見ることにします。結論から言うと、先行技術調査で新たに上がっていた12の特許については、概ね侵害はなさそうかなと思われます。一方で、BCB社の特許は、要注意ですね。5頁の請求項1を見てください。」
 近藤は、事前に読み込んできた調査結果やBCB社の特許について、概説するとともに、問題と考えられる箇所を、仲川と一緒に読み込むことにした。

 近藤の見立てでは、ZF社のコア技術をそのまま知財化しようとすると、BCB社の特許を侵害する恐れが大きいと感じられた。ただ、見方を変えれば、このようなことは今後もZF社に起こりうるので、ZF社にとっては、対応を学ぶ良い機会にもなるのではないか、とも考えた。
 「本当に侵害するかどうかは、別途専門家に鑑定をお願いする必要があるので、御社でご対応いただくとして、ここではどう対応すべきかを検討していきましょう。侵害は確かに重大な問題ですが、その対応方法もいろいろあります。そのことを知っていれば、冷静に的確に対応できるものです。」
 仲川は、近藤の言葉を聞いてホッとするとともに、一層近藤を信頼するようになった。

解説

・特許調査の依頼方法や結果の使い方を研究開発型スタートアップに教える
・問題が発生したら、研究開発型スタートアップと共に解決策を考える


1.特許調査の知見を残す
 研究開発型スタートアップに、特許調査の手法や結果の見方等の知見を残すことも有効です。
 例えば、調査会社とキーワード等調査の仕様を詰める場面で、調査会社への説明のためのミーティングに研究開発型スタートアップを招いたり、仕様を詰めるメールのCCに研究開発型スタートアップのアドレスも入れたりすることで、どのような観点で調査を行うことが有効なのかを知ってもらえるよう、心がけてみてください。
 さらに、調査結果についても、専門家が結果だけを要約して研究開発型スタートアップに伝えるだけでなく、リストを一つ一つ説明していくことや、重要な出願済みの特許は請求項を読み合わせる等することも有効です。

2.問題が発生したら共に解決策を考える
 メンタリング中には、様々な問題が発生することがあります。
 例えば、ZF社のようにコア技術が他社特許を侵害している恐れが見つかることや、協業先の大企業との契約交渉で分が悪くなる等です。
 ただ、こういった問題は常日頃から発生する可能性はありますので、研究開発型スタートアップにとって良い学習の機会になったと捉え、一緒に解決策を考えるようにしてください。その際、知財専門家の力を存分に発揮し、冷静に対応いただければと思いますが、決して、専門家だけで解決策を見いだしてしまわないよう心がけてください。

Day5 他社との協業を考える

出願戦略の方向性等が定まってくると、協業先等社外との関係性の検討に入っていきます。研究開発型スタートアップの強みを十分に活かした協議先とのシナジーを定量的に検討しつつ、協議を進めます。

Story

  「では、本日の後半は、再びビジネス的な要素も入れてアライアンスについて検討していきましょう。まず、先日宿題にしていました協業先リストについて、仲川さんからご教示いただけますか。」
 出願方針も描け、いよいよメンタリングは最終局面に入ってきた。
 これまでのメンタリングを通じて片桐と近藤はしっかりコミュニケーションをとれており、チームとして有機的に動けるようになった。また、仲川の片桐と近藤に対する信頼も高まっており、共有する資料も的を射たものになり、メンター2人との会話も円滑になっている。
 「仲川さん、ありがとうございます。では、みなさん、ちょっとホワイトボードを見てもらえますか。物流倉庫用ロボットのバリューチェーンを書いてみました。ここに、今仲川さんが教えてくれた協業先や、これまで教えてくれた競合等を入れ込んでいきましょうか。」
 片桐はホワイトボードの前に立って、ファシリテーションを始めた。

 「仲川さんが協業を考えているロボット製造業者に対して、ZF社との力関係はいかがでしょうか?」

解説

・業界構造を図示する等して、プレイヤーと自社の交渉力を確認
・協業先の設定はシナジーを定量的に示せるかがポイント


1.知財を考慮したプレイヤーに対する交渉力の確認
 協業先候補に対する自社の交渉力や、協業した場合の顧客への影響力を見極める必要があります。
 その際は、バリューチェーン等を描くことが有効だと考えられます。
 同じバリューチェーン上の協業先と、競合他社のバリューチェーン上のプレイヤーを洗い出し、競合優位性を書き込むことで、各プレイヤーに対する自社の交渉力が見えてきます。
 メンタリングの中では、ホワイトボードに書きながら話す等、視覚的に情報を共有することも有効です。

2.知財を考慮した協業先とのシナジー
 協業先の検討・候補出しについては、まず、研究開発型スタートアップ側から明確に協業先候補があるのか、候補先との間のシナジーは、中長期的な売上等で定量的に示されるのか等をポイントとして確認します。
 また、利害関係者にしてほしいことと自社が相手方に提供することのバランスがとれているか、win-winとなっているかの確認も重要です。この際、バランスがとれていない場合は、対応策を研究開発型スタートアップと共に検討してください。



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