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IPASを通して見えた知財メンタリングの基礎

Day4 コア技術とその有効性を明確化する

ビジネスの確認ができたら、いよいよビジネスに紐づけて技術面の協議を深化させる段階に入ります。特に、ビジネス面について変更や詳細化を行った場合は、知財面も方向性の修正が必要になることがあります。

Story

 「コンパクトさとバランスという強みがありますが、物流倉庫だとある程度通路幅は確保されているのでバランスが強みになりそうですね。バランスの良さは、御社のどの技術が効いているのですか?」
 近藤の知財メンタリングが始まった。
 「ZMP(※1)の位置を常に安定領域に収められるように制御できる技術が強みですね。この制御技術で大学の時に取得した特許が、わが社の基本となっています。」
 「ZMPは、特に二足歩行ロボットが不整地を移動する場合重要になってくるかと思いますが、倉庫だと整地の場合が多いですよね。そうすると、別の強みに着目したほうがいいかもしれません。例えば、力制御等(※2)も工夫されていますか?」
 「はい、制御システムの中の一つではありますが、以前はそこまで重視していませんでした。」
 「倉庫では多様な荷物をつかみ・離す必要がありますもんね。力制御はどう工夫していますか?」
 近藤は、質問を繰り返していきながら、徐々に守るべきコア技術を特定していった。
 「近藤先生。先日、私も関連する特許を再度確認していたのですが、実は、米国でこのような特許が出願されていました。今話していて、ちょっと似ているなと思いまして・・・」
 「ちょっと良く読み込む必要はありますが、確かに懸念事項ではありそうですね。この他にもないか、しっかり調査したほうがよさそうです。」

解説

・ビジネスと連動させて、コア技術を再定義する
・先行技術を本格的に調査し、他社特許を侵害していないか把握する


1.コア技術を再定義する
 研究開発型スタートアップの中には、大学時代や研究所時代に開発した技術や取得した知財を基に起業している企業も多く存在します。しかし、このような技術や知財は、現在のビジネスを前提に開発や取得したものではないため、必ずしも現在のビジネスに合っているとは限りません。
 そのため、現在のビジネスを理解したうえで、コア技術を再定義することも想定されます。
再定義する場合は、研究開発型スタートアップと一緒に新たなコア技術を探索していく必要性があります。その際は、研究開発型スタートアップに対し、メンターから繰り返し新たなコア技術になりそうな技術要素を提案し、入らなさそうな要素をそぎ落としていく作業が有効です。

2.本格的に先行技術調査を実施する
 新たなコア技術が概ね把握できてきたら、先行技術調査を実施します。
 当該調査は、これまでメンターが独自に調べていたものだけでなく、調査会社に委託する等して本格的に実施するものです。調査で似たような技術が見つかった場合は、メンターが確認するだけではなく、研究開発型スタートアップと一緒に読み合わせ、問題となる箇所の有無を一緒に確認することも考えられます。これによって、研究開発型スタートアップの知財に対する知見が深まり、以降のメンタリングがより効果的になることも期待できます。

※1 ZMP:ゼロ・モーメント・ポイントの略。慣性力と重力によって発生するモーメントの合計がゼロになる床上の点。
※2 力制御: 外的な物理的圧力を加えた際に生じるインピーダンス(慣性、減衰係数、剛性等)やZMPの位置を常に安定領域に収められるように制御する技術。

Day4 価値提供に立脚した技術の活用方針作成

知財戦略を見直す段階では、特に、どのような技術を知財化し、その知財をどう活用するかに焦点を当てていくことになります。

Story

 「再度仲川社長が学生時代に取得された特許を見返しますと、どうも力制御については、請求項にはっきりとは明示できていないようですね。この特許だけだと物流倉庫向けの製品のコア技術は守れない恐れが出てきます。特に、この分野は海外からも注目を浴びている分野ですので、早急に周辺特許を出願しておいた方が良さそうです。」
 近藤は、丁寧に仲川に説明した。
 というのも、ZF社の製品は、仲川が学生時代に取得した特許を拠り所にこれまでビジネスを模索しており、自分たちの特許が非常に強いものであるというイメージを持っていたためである。理屈はわかっても心情的に受け入れがたい事項であるので、やはり丁寧に説明する必要があると近藤は感じた。
 「では、外部の弁理士にドラフトを作ってもらいましょうか。もちろん、背景や意図はしっかり伝える必要があるので、一度当メンタリングに参加いただいたほうがいいですね。」
 「次に、取得する特許をいかに活用するかについて考えます。ロボットのバリューチェーンは以前作成いただいたので、それを基に考えましょう。そうすると、御社の技術を一番欲しているのは・・・」

解説

・コア技術を守るにあたって、不足部分の出願戦略を描く
・知財を活用したマネタイズを具体化する


1.不足部分の出願戦略を描く
 ビジネスと紐づけて新たなコア技術を再定義することで、大元となる特許では新たなコア技術を守り切れないことが発生します。特に起業前の大学時代や研究所時代に発明した技術については、現在のビジネスを想定せずに知財化している場合もあり、このような現象が発生しがちとなります。
 知財専門家としては、上記の事実を基に、周辺特許を追加で出願する等を提案することが有効です。
 この際、知財専門家は、出願数についても考慮に入れておく必要があります。具体的には、研究開発型スタートアップの場合、その資金等を考慮すると、大企業のように1つの技術に対して多数の特許を出願することは難しいので、複数の限られた数の特許で守ることが現実的であり、それぞれの特許の範囲を可能な限り広げる努力をしなければなりません。
 さらに、この時点で、外部の弁理士等に請求項案を作成してもらい、どのように広い特許をとるのかを研究開発型スタートアップと共に検討していくことも、知財活用の知見を蓄積するという意味では有効な手法となります。

2.知財戦略に基づいたマネタイズを具体化する
 知財戦略を描く上で、技術をどう守るかというテーマと同時にその知財によってどうマネタイズするかも重要な論点となります。
 ビジネス専⾨家と共同して、バリューチェーンを描きながら、この知財が持つ交渉⼒や有効な交渉先、そこから得られる⾒込み売上を想定しつつ、次の協業先の検討に繋げていきます。



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