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IPASを通して見えた知財メンタリングの基礎

Day6 外部の専門性を活用する

時には、研究開発型スタートアップの悩みが2人のメンターの専門外である場合もあります。 そういったときは、どのように対応すればいいのでしょうか。

Story

  「今日は、弁護士の蛭川先生に来ていただきました。メンタリングにおけるご依頼事項の一つ、帝都大学からのライセンス契約について相談に乗ってもらうためです。蛭川先生とは、よくセミナーの講師の時にご一緒させていただいたり、国の委員会でご一緒させていただいたりしているんです。機械工学系の訴訟では私の知るところピカ一の先生ですね。」
 「近藤先生、ありがとうございます。LG法律事務所の蛭川です。よろしくお願いします。」
 近藤は、メンタリング初期から、この場に蛭川を呼ぶことを考えていた。
 本来、IPASでは出願書類や契約書の作成等は原則対象外となっている。しかし、帝都大学とのライセンス契約を有利に運ぶためには、蛭川にもZF社の方向性や仲川の人となりを知ってもらう方が良いと判断した。
 「本日、蛭川先生はオブザーバー的な立ち位置でご参加いただき、その後別契約で契約書作成のご相談にご対応いただければと思います。もちろん、オブザーバーと言っても特段制約はありませんので、どんどんご発言いただいて大丈夫です。」
 「近藤先生、蛭川先生ありがとうございます。本日司会を務めます片桐です。ではまず、仲川社長から、蛭川先生にビジネスや技術の概要をご説明いただければと思います。」

解説

・• 自身のネットワークを使って総合的な支援を行う
• 外部専門家にインプットする


1.ネットワークを活用する
 研究開発型スタートアップの悩みは多岐にわたるため、二人のメンターの専門外の悩みが出てくる可能性もあります。具体的には、契約書の作成や特殊な分野のビジネスへのニーズ等、それぞれ専門的な知見が必要となるような場面です。その際は、迷わず外部の助けを借りましょう。
 特に、研究開発型スタートアップの場合は、知財が絡んだ契約への対応が必須となる場合が多いので、留意が必要です。なお、契約については、特許庁においてモデル契約書(※3)が公開されていますので、ご活用ください。
 このような場面で有効となるのが、メンター自身の人的ネットワークです。日頃から様々な専門家と付き合い、連絡できるネットワークを持っていることで、このような際に自身が人材プラットフォームとして活躍できます。
 なお、人的ネットワークのチカラを借りる時も、全体の把握や進捗管理等は行うようにしておくこともポイントです。

2.外部専門家にインプットする
 外部専門家も研究開発型スタートアップのスケールを支援するという意味では、チームの一員です。
 そのため、これまでのチームの取組結果をできるだけ具体的に外部専門家にインプットすることが有効です。
 できれば(外部専門家が許せば)オブザーバーとしてメンタリングに参加いただく等して、研究開発型スタートアップのビジネスや技術だけでなく創業者の人となり等にも触れてもらうのが良いといえます。
 また、研究開発型スタートアップ側も、メンタリングの場は外部専門家との信頼関係を築くためのよい時間となりますので、メンターは両者の橋渡し役として対応することが有効です。なお、外部専門家がメンタリングに参加する場合は、企業側の機微情報に触れることとなるため、守秘義務遵守のため誓約書を締結する等の対応が望ましいです。

※3 モデル契約書: https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/index.html

Day6 ロードマップを描く

いよいよメンタリングも最終局面に入ります。最後は、これまでの検討結果を実行に移すため、時間軸や取組同士の関係性・順番等を描いたロードマップを作成します。

Story

 「では、最後にこれまで検討してきたZF社の取組をロードマップに落とし込んでいきましょう。ホワイトボートをご覧ください。ひとまず、本年も入れて3年分の年表を書いています。仲川さん、まずは、当面のゴールを設定してください。」
 片桐がファシリテーターとなり、ロードマップの作成が始まった。

 片桐が描いたロードマップのフレームは、縦に、「開発」、「生産」、「営業・マーケティング」、「知財」、「資金調達」と並び、横に3年分×4半期のマス目のある表であった。
 「そうですね。来年末には上市したいと思います。そのために、PoCは今年度中に作り、改良を重ねつつ、大量生産のための準備をしなければですね。」
 仲川は、おおよそのコントロールポイントを作り、そこから逆算していった。
 「展示会への出展予定はありますか?予定があるなら、その前には特許出願しておくべきですね。」
 知財面については近藤からも意見が出た。
 「帝都大学とのライセンス契約はいつごろまでに決着をつけておく必要がありますかね。」蛭川も会話に加わった。

解説

・ 事業計画と知財の取組が同期しているかを最終確認する
・リーダー的立場のメンターが全体を俯瞰して調整する


1.事業計画と知財の取組の同期を確認
 最後に、開発、生産、営業、マーケティング、知財、資金調達といった事項と時間軸の相互関係を示したロードマップを作成します。
 作成にあたっては、上市の時期や資金調達の時期等コントロールポイントをまず定め、コントロールポイントを達成するために必要な事項と期間を見ながらバックキャスティング的な思考で作業することが有効です。
 この際、関係者で会話をしながら作業を行うことで、ヌケモレなく無理のないロードマップが作成されていくと考えられます。
 ロードマップでは、「全体設計とロードマップとが整合するか」、「社長の世界観が実現しうるのか」、「ユーザーのニーズ、開発する機能、研究する要素技術の優先順位が明確となっているか」等を特に確認してください。

2.リーダー的立場のメンターが全体調整を行う
 ロードマップを描く際、ファシリテーターはリーダー的立場のメンターが担うことがよくあります。
 ロードマップにおけるコントロールポイントは、上市や資金調達等、主にビジネスの観点からの事項が一般的であり、知財取得等のロードマップはビジネスの時間軸に沿って実行される傾向にあります。そのため、リーダー的立場のメンターは、これまでのプロジェクトマネージャー的な役割を背景に、ビジネスの観点を主に全体調整を行ってください。
 なお、全体調整を円滑に行うため、日頃からファシリテーションのスキルを磨いておくことが有効です。



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