2.プログラムを通じて把握した課題と対応策
課題9 既存の特許では自社のコア技術を十分に守り切れていない
自社のコア技術の権利化を図る際には、その技術を誰に対し、いつ・どこで・どのような目的で行使するかを整理し、
他社から収入を得るためのものなのか、他社からの攻撃を防ぐものなのか、バリューチェーン上どの部分に影響があるのか、
といった権利の活用方針を立てることが必要である。
Point
・権利範囲がビジネスの内容とマッチしているか確認しましょう。・マッチしていない場合は、すぐさま追加で特許を取得する等して、早急にコア技術を守るようにしましょう。
事例⑮ 周辺技術の特許出願により自社のコア技術の保護を強化する
1.スタートアップの課題
スタートアップは、現在の自社のコア技術はすでに出願した特許等で守られていると考えていました。しかし、これらの特許の出願時は特許権を取得することを主眼に考えていたため、出願内容や権利範囲を吟味していなかったことや、特許の出願時に想定していた事業と現在の事業が少しずれてきたことから、現在の事業は今持っている特許では完全には保護されていないことがわかりました。
当時、スタートアップは大手企業と共同研究開発の契約交渉を実施している段階だったため、このコア技術が守られていないと、大手企業に対する交渉力が落ち、自社に有利な契約を結べない状況に陥ることが懸念されていました。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、既存の特許の周辺技術について新たに特許出願し、周辺特許を押さえることを提案しました。
周辺特許の出願に当たっては、事業の5W1Hの検討と事業計画との擦り合わせを行った上で、コア技術のどの部分が既存の特許権では保護されていないかを明らかにしました。
3.本事例のkey factor
特許は、取得することに意味があるのではなく、事業に活用して初めて意味があると考え、出願時に具体的な事業を想定して権利化するようにしましょう。
既に取得した特許で現在の自社の技術、事業が守られていないと認識した場合は、可能な限り追加出願を行い事業範囲をカバーするようにしましょう。
事例⑯ 現時点でのMVPを守るため、分割出願を行い自社技術の保護を強化する
1.スタートアップの課題
スタートアップは、社長が大学時代に取得した特許をコア技術として事業を展開することを考えていました。しかし、MVP(Minimum Viable Product:必要最小限の機能のみをもつ最もシンプルな製品)を明確化したところ、既存の特許では、MVPを守り切れていないことがわかり、他社が同様の製品を出してきても対抗できないことが懸念されました。
これは、特許出願段階では、まだ開発段階で具体的な事業が見えておらず、MVPがはっきりしていなかったためと考えられます。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、自社技術の顧客への価値からMVPを特定し、そのうち既存の特許でどの部分が守られていないのかを特定しました。
そして、既存の特許の分割出願を行うことで、MVPを守ることを提案しました。
なお、既存の特許は社長が大学時代に取得したものであり、大学名義の特許となっていました。
そのため、専門家はスタートアップに対し、大学とライセンス契約を締結すること、そして、契約の中では、分割出願等の際にスタートアップが独自に弁理士を選べる権利を持つ条項を入れることを提案しました。これにより、分割出願の方針策定や特許審査への対応を円滑に行えるようになります。
3.本事例のkey factor
特許出願時と現時点では、事業に求められる技術のコア部分が異なる場合があります。そのため、定期的に既存特許の権利範囲を確認し、必要な措置をとることが重要です。
特許のライセンスを受けている場合等は、特許の補強にライセンス元との交渉や調整が必要になります。このため、特許を円滑に補強できるよう、ライセンス契約の条項を工夫する等の措置が有効です。