1. デュー・デリジェンス総論
(2)DDの実施上の制約
すべてを予め確認できているにこしたことはありませんが、DDとして調査し得る項目は無限に存在する一方で、現実にDDを実施するには、いくつかの制約があります。
第一に、DDにかかる費用の制約があります。
調査対象となる資料の多くは、対象会社の営業秘密に当たることが多いことから、対象会社の協力を得て開示を受ける必要があります。しかし、DDの結果、その出資者等とは取引を行わない可能性もあるため、無制限に自社の営業秘密を開示することは好ましくありません(出資者等と対象会社が潜在的に市場で競合する場合はなおさらです。)。
そこで、実際のDDでは、開示される資料を見ることができる者を、出資者等が雇った外部の弁護士や公認会計士等の専門家に限定し、出資者等はその調査報告のみを受けるケースが比較的多く見られます。この場合に、調査すべき事項を拡大することは、外部の専門家に支払う費用の増加につながります。大型の企業買収などであれば、多額の費用をかけて第三者による調査を手配することを正当化できますが、少額の資本参加のようなケースでは、調査範囲を限定して、費用を抑える必要があります1。
第二に、DDに対する時間的制約があります。
例えば、スタートアップ企業の成功にはスピードが重要であり、現在交渉中の出資者等との交渉が進まないのであれば、別の出資者等との交渉を進めたいという需要があります。また、事業再編におけるスポンサー探しのように、支援の遅れが対象会社の財務状態の悪化に直結するケースもあります。そのため、出資等のDDの実施期間としては、1~2か月という短い期間が設定されることが多いのが実情です。このような短期間でDDを行うためには、外部の専門家を活用すると同時に、真に確認すべき事項に調査範囲を限定する必要があります。
以上のような事情から、DDにおける調査範囲を合理的に絞り込む必要があります。
1 もちろん、外注費用を抑えようとすれば、対象会社の同意を得て、開示された資料を見ることができる社内のものを限定した上で、出資者等自身の内部でDDを実施することも可能です。もっとも、専業の投資家(VCやPEファンド)であればともかく、事業会社にはDDに専従する担当者が必ずいるというわけではないでしょう。そうすると、必然的に社内の既存の人員(法務・知的部門や事業・研究開発部門)で対応せざるを得ません。しかし、対象会社から秘密保持義務の負担付きで開示された情報と自社で開発した情報が担当者の頭の中で混同(contamination)してしまうと、対象会社の営業秘密を無断で流用したという嫌疑を受けてしまうおそれがあり、開示された情報の取扱いには注意が必要です。