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知的財産デュー・デリジェンス標準手順書及び解説

調査項目一覧表解説

II.対象技術等毎の、対象会社における利用可能性・利用可能範囲の調査

1.対象技術等を、対象会社が保有しているか、第三者が保有し(対象会社がライセンスを受け)ているかの調査

具体的調査項目

① 対象技術等の発明者、考案者、創作者

② 対象技術等の共有者、共同出願人

③ 製品等の開発方法が、自社開発、共同開発、外注のいずれか

④ 自社が利用できる根拠となる契約関係

⑤ 職務発明等の各規程の存在、履践状況(相当の利益の付与の有無等)

調査目的

対象技術等を対象会社が単独で保有しているか、第三者が保有(又は第三者と対象会社で共有)しているかを確認するため。

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解説

対象技術等を対象会社が単独で保有しているのか、第三者が保有しているのかなど、対象技術等に関する知的財産権の権利関係を調査するためには、①法的な観点のみならず、②事実上の観点からも調査・検討する必要があります。

まず、①その発明者や創作者の確認や②共有者の確認といった直接的な確認が考えられます。これらの調査項目の調査資料としては、特許、意匠、商標等の特許庁への登録が必要な知的財産権については、特許庁が管理する権利者の記録簿である登録原簿を閲覧することで最新情報を確認することが一般的です。もっとも、最新情報が反映されるまで多少のタイムラグはあるものの14、無償で公開されている特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を利用することも可能です。著作物の場合には、登録をせずとも法律上は権利は発生しますが、一部の著作物については、文化人名録やSOFTICのデータベース(ソフトウェア著作物)を確認することもできます。

また、③製品等の開発方法の確認や、④対象技術等の利用に関する契約の確認といった技術等の生まれた経緯を確認することで、登録情報上の形式的な記載と実際の権利関係の不一致を発見することに役立ちます。また、発明者、創作者等については、対象会社の従業者からのヒアリング等によらざるを得ない場合も多いため、客観的な物証で裏取りをすることも有効です。例えば、業務委託契約や共同開発契約といった、製品等の開発に関連する契約内容を確認することで、製品等が自社開発なのか、共同開発なのか、あるいは第三者へ外注して開発したのか、といった点が確認できます。

⑤職務発明については、その特許を受ける権利を使用者等(会社)が取得するには、従業者から譲渡を受けるか、職務発明規程等の社内規則で必要な規程を設けることが必要です。よって、そのような規程の有無や、規程に沿った手続きに則って会社が権利を取得しているかどうかを確認することが必要とも思われます。もっとも、対象会社が職務発明に係る権利を取得する手続自体は難しいものではないので、取引実行前の義務やPMIの中で対応することも考えられます。

加えて、特許法上の「従業者等」には、会社の代表権を持つ役員(代表取締役等)は含まれないため、創業社長が発明者であるような場合には、職務発明に当たらないこともあり得ます。このような場合に、今後も権利を創業社長が保有し続け、対象会社へのライセンスを行うのか、それとも対象会社が権利を取得済又は将来取得するのかは、重要なポイントとなります。

同様に、大学発ベンチャーの場合には、技術のオリジネータである大学教員が当該ベンチャーにどのように関わるのかという点は重要です。仮に、当該ベンチャー企業が特許権を譲り受けていたとしても、刻々と変化するマーケットに対応するために大学教員の知見が必要である場合があります。仮にこれが必要であるとすると、当該教員とベンチャー企業との契約、当該教員のベンチャー企業における地位(取締役、CTO等)、当該教員が長期間ベンチャーに関わり続けるインセンティブの確保の状況(ストックオプションの付与など)など、当該教員から技術的な知見の提供を受けられる体制の確認を行うことも一案です。反対に、対象会社の技術管理が粗雑であったり、従業者等の定着率が悪く、コアとなる技術者の転退職が多いなどの事情がある場合、その状態が将来にわたって維持されるかどうかは疑義なしとはいえません。このように、対象技術の帰属性については、現時点のみならず将来にわたり対象会社の技術競争力が損なわれる要素がないかどうか、という観点からの精査をすることもあり得ます。この点は、後述のガバナンス調査とも関連することになります。


14 厳密に言えば、J-PlatPat上のタイムラグの間に権利が第三者に譲渡されてしまっているおそれもあるので、重要な対象技術等に限って登録原簿を確認することもあり得ます。

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