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知的財産デュー・デリジェンス標準手順書及び解説

調査項目一覧表解説

Ⅵ.価値評価18

1. 価値評価対象の技術・事業の特定

具体的調査項目

価値評価対象の技術・事業の特定を行う。

① 特許権、実用新案権、又はその対象となり得る技術等

② 商標権又はその対象となり得る標章、マーク、ブランド等

③ 意匠権又はその対象となり得る工業デザイン等

④ 著作物(コンテンツ及びプログラム等)

⑤ 営業秘密・ノウハウ

⑥ その他の知財(ビッグデータ等)

⑦ 権利化してないが事業化が見込まれる技術

調査目的

対象会社のM&Aや技術提携の対象となる知財が、特許等(技術等)や、商標(ブランド等)、意匠(デザイン等)、著作物(コンテンツ及びプログラム等)、あるいは営業秘密・ノウハウ、その他の知財(ビッグデータ等)のいずれなのかを見極め、価値評価の調査対象を特定します。

2.知財の定性評価

具体的調査項目

知財の価値を定性面からの評価を行う。

① 事業・技術力

② 技術評価、ブランド評価

③ 事業・技術ベンチマーク対比

④ 知財価値の経年変化等

⑤ ブランドに係る経済的ポテンシャル

⑥ その他(ポテンシャルや外的要因など)

調査目的

対象会社の事業戦力や技術評価、ブランド評価などを定性的に評価することで、投資意思決定の判断材料のひとつとする。知財の定性面からの評価を行う手法として、(1)対象会社の事業内容の分析(価値源泉となる製品等の特定等)、(2)対象会社の製品等やシステム、ソフトウェアの構成の分析(含まれる知財の特定等)、(3)対象会社の売上構成の分析(製品等毎のライセンス料売上の比較等)が例として挙げられます。

3.知財の定量評価

具体的調査項目

知財の価値を定量面から評価を行う。

① 経済的価値

② ライセンス対価

③ 実績保証金額

④ 譲渡価格等

⑤ その他(アライアンス、研究開発関連、資金調達状況、将来予測等)

調査目的

対象会社の技術やブランドなどの知財の経済的価値や、ライセンス対価を定量的に評価することで、投資意思決定の判断材料のひとつとする。

解説を表示

18 参考となる文献として、山内明「知財情報解析を活用した新たな知財価値評価主砲の紹介」(知財管理66巻4号446ー458頁(2016年))、同「IPランドスケープ実践に役立つ知財情報戦略ー特許マーケティングを中心としてー」(Japio Year Book 2017 198ー205頁(2017年))、特許庁「知的財産の価値評価について」(特許庁・(一社)発明協会アジア太平洋工業所有権センター(2017年))などがあります。

解説

(i)価値評価の対象となる技術・事業の特定

知財の価値評価を行うにあたっては、前提として、「対象となる知的財産の特定」、「知的財産の法的実効性の確認」等を行う必要があります。

  1. ① 対象となる知的財産の特定
    対象会社の価値の源泉となる知財が、特許等(技術等)や、商標(ブランド等)、意匠(デザイン等)、著作物(コンテンツ、プログラム等)、あるいはその他の知財(ビッグデータ、営業秘密・ノウハウ等)のいずれなのかを見極め、価値評価の調査対象を特定します。
  2. ② 知的財産の実効性の確認
    知財の法的実効性とは、例えば、成立した特許権に無効理由がないか、権利満了日まで猶予があるか等といったことが挙げられます。また、重要性の高い製品等に必須の技術等を適切にカバーしている権利を取得し、又はライセンスを継続的に維持できるかといった確認も必要です。
  3. ③ その他確認事項
    上記以外にも、価値評価を行う前提として、確認しておくべきことはケースに応じて様々であり、確認を疎かにして価値評価を進めること自体が大きなリスクとなる点に留意する必要があります。

(ii)価値評価手法の分類について

対象となる知財の特定した後、その価値を評価し、知財経営に資する戦略提言や投資意思決定の判断材料の一つとすることになります。知財の価値評価は、前提条件を基に様々な手法を用いて行い、その手法の分類方法を大別すると、定性評価と定量評価に分類することができます。

定性評価は「質的アプローチ」とも呼び、現象の質的理解や説明に用いられ、数値として測量できないデータを解釈する際に用いられます。一方、定量評価は「量的アプローチ」とも呼び、現象の量的理解を数値化したデータによって解釈します。価値評価手法においては、定性評価と定量評価は両輪として補充関係にあるため、定量評価を進めていく際にも質的データは必要となります。例えば、質的情報を数量化することにより、定量評価では解明できなかった要素間の関係性を明瞭にすることも可能です。

例えば、アンケートデータは対象者の主観的回答(質的)を数値化することにより定量評価が可能となり、データの可視化につながります。定量評価の代表的手法としては、コストアプローチ、マーケットアプローチ及びインカムアプローチの3つの手法が存在します。各々、メリットとデメリットが存在するため、ケースに応じて知財の価値評価手法を適宜選択することが必要です。ただし、知財の価値は事業性や権利保有者等によって大きく価値が変化するため、知財の価値評価手法としては、事業貢献度を加味できる「インカムアプローチ」を用いるケースが多いのが現状です。

  1. ① コストアプローチ
    コストアプローチとは、知財が権利として確立するまでに支払われるコスト(研究開発費・人件費・弁理士費用等)に基づき、知財の価値を算出する手法です。例えば、知財権を取得するために必要となった費用(研究開発の工数に基づいた人件費、代理人費用等)を足し合わせる方法が挙げられます。
    コストアプローチは、コストに客観性があり、評価の対象となるコスト項目が同じであれば、誰が評価をしても同じ評価になる手法である点がメリットです。一方、コストに基づく算出手法のため、知財のビジネス上での価値が反映されないデメリットがあります。特に、知財が価値の大半を占める技術ベンチャーの場合、コストアプローチでの評価は過小評価になりがちです。
  2. ② マーケットアプローチ
    マーケットアプローチとは、類似した取引事例を基に、価値を算定する手法です。
    マーケットアプローチは、対象の知財に類似する取引事例の存在を前提とすれば、当該事例を基に簡便に価値を算定できます。しかし、知財の場合には、不動産や金融商品とは異なり、同様の知財が市場で取引されるケースが少ないため、当該方法を適用する場面は評価対象が知財の場合、非常に限定されるのが現状です。
  3. ③ インカムアプローチ
    インカムアプローチとは、資産が将来生み出す収益を予測し、資産の価値を算出する手法です。インカムアプローチの代表的な手法として、不動産や株式の評価に幅広く用いられているDCF法、ロイヤルティ免除法、利益差分法等が挙げられます。なお、利益差分法については、その改良として、特許情報解析を通してベンチマークを設定、商品訴求力の相違を価値に置き換えるといった改良法も提案されています。
    例えば、知財の価値評価にロイヤルティ免除法を適用する場合、対象となる知財を自社で保有せず、他者が保有していたと仮定した場合に他者に支払わなければならなかったと想定されるライセンス費用を対象知財の価値として算出できます。インカムアプローチは、知財の事業への貢献度等を加味できますが、貢献度自体が大きな恣意性を伴う点に注意を要する手法といえます。

(iii)知財の価値評価に関するまとめ

このように、知財の価値評価を行うには、確認すべき事項が多数存在し、その手順も複雑です。しかしながら、現状は、各事業会社等では、知財の価値評価を行うか否かの判断及び価値評価の手法も担当者の判断に依っているのが現状です。

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