2. デュー・デリジェンス各論
(1)一般的な出資等のプロセス
(ii)一般的なDDの手順
① 資料リストの作成
初期的資料開示や独自の調査に基づき、必要な調査を深掘りしていくために、通常は、出資者等が開示を希望する資料要請リスト(【開示要求リスト】参照)を提出し、売主は当該リストに記載された資料(のうち開示が可能なもの)のみを開示することになります。
最初の資料要請リストの段階では、漏れを防ぐ必要もあるため、ある程度は網羅的なリストとなることは避けられません。ただし、DD方針に沿って優先度の高い資料は早期に開示するよう要請する必要があります。また、網羅性を重視して定型的な雛形を使用するケースも少なくない一方で、専門用語が多用されていたり、「○○に関する資料一式」などの抽象的な書きぶりとなっている場合も散見されます。このため、対象会社が調査との関連性が希薄な資料を準備し、調査期間を浪費してしまうことも珍しくありません。そこで、リスクには可能な限り具体的な資料名を記載する、資料リストの読み方について対象会社と理解の不一致が出ないよう協議する場を設けるなど、スムーズかつ適切な開示が行われるよう工夫することが重要です。
② 資料の開示
資料リストに記載した資料で開示可能な資料が順次開示されていきますが、この開示作業は対象会社の負担も大きいため、期間を限定して短期集中的に行われることが一般的です。
開示方法には、対象会社から出資者等へ直接に紙媒体・データを送付することもあり得ますが、最近は、ネットワーク上の専用ストレージサービス(VDR: Virtual Data Room)経由での開示が普及しつつあります。一方で、機密性の高い資料については、DD担当者が対象会社のオフィスに出向いて、現地の会議室で原本を確認するいわゆる「オンサイトDD」の場合もあります。オンサイトDDの場合には、対象会社オフィスの会議室などを一時的なデータルームとして確保し、そこに開示資料を備置します。加えて、秘密保持に必要な情報管理を目的として、開示期間の限定、資料の複製(コピー)の禁止、案件不成立時の破棄・返還など一定の制限が付されることもあります。
③ 開示資料の検討
DDの基本方針に沿って、以下のような観点から開示資料を検討を進めていきます。開示資料では不十分な点があれば、さらなる開示を求めたり、書面やインタビューでの補充調査を検討することになります。
- (a) 重要な前提条件を確認できる資料が開示されているか(資料の存否)
- (b) 開示された資料のみで重要な前提条件を確認できるか(資料の信用性・十分性)
- (c) 開示資料に重要な前提条件を覆すような内容が含まれていないか
④ 書面での質問
登録される権利(不動産、特許権等)、裁判所の判決文、適切な署名・記名押印や電子署名の付された契約書などであれば、書面に基づいて、権利や契約関係の存在を確認することは比較的容易です。しかし、契約は締結したが、契約書はなく受発注のメールのやり取りしかないといった理由で、契約を示す資料として電子メールのやり取りが開示される場合など、実際のDDでは、開示された資料がそもそもDDの目的意識に沿って作成された資料でなく、開示された資料のみでは必要十分な事実を認定できないことがあり得ます。例えば、以下のような事態が起こり得ます。
- 口頭での約束のみで、契約書が締結されていない
- 締結されていても、極めて簡易なひな形ベースの契約書である
- 当事者が署名・記名押印した契約書がなく、社内報告(レポート)しかない
- 書面中で定義なく専門用語が用いられ、又は文言の定義が不明瞭なために、記載内容を一義的に解釈できない
- 書面のみでは背景事情が窺い知れず、書面に現れない事実を確認する必要がある(残業の実態など)
このため、通常は、出資者等から書面による質問リスト(Q&Aシート)を送付し、これに対象会社が回答することによって、より具体的な事実関係を確認し、又は参照すべき資料の指示を受ける手順を踏むことが一般的です。例えば、以下のような事項を確認することになる。なお、後記のインタビューで代替することもありますが、口頭での質問・回答は(議事録を作成しない限り)事後の検証が困難となるため、少なくとも重要な調査項目については書面で確認することにより、証拠を残すことも検討する余地があります。
- (a) 重要な前提条件を確認できる資料が存在しない理由の確認
- (b) 開示資料の内容(作成者・時期、用語や条項の意味、他の資料との不整合など)の確認
- (c) 重要な前提条件を覆す事実が存在しないことの確認(ネガティブチェック)
⑤ インタビューの実施
前記のとおり、重要な調査項目については、書面で回答を受けとる方が事後の争いを避けられます。しかし、詳細な事実関係をすべてQ&Aシートに記載することは難しく、また、書面での回答のみでは、誰が(事業の内容に詳しい者か)、何を根拠に(客観的な数字や根拠に基づくものか)、どのようなニュアンスで回答したのか(断定か推測か)などが判然としないこともしばしばです。
これらの点は、役員、管理職等のマネジメント層や実務担当者へのインタビューで確認していくことになります。インタビュー対象者は調査項目によって異なります。例えば、会社全般に関わる重要事項であればマネジメント層に、現場の細かな実務は現場の実務担当者に確認することになります。なお、事後の検証に備えるため、インタビューの実施前に質問事項を送付し、了解を得て録音を行ったり、インタビュー実施後に回答内容を議事録化して、インタビュー対象者の確認を取るなどの工夫を行うこともあります。
なお、インタビューは書面での調査が一段落した段階で実施させるケースが多いですが、早期にオープンなインタビューを実施し、対象会社の事業や組織の全体像を把握するためのインタビューの機会を設けることもあります。このようなインタビューには、できる限り、DDの各分野を担当する者も参加し、全体像を共有しておくと良いでしょう。
⑥ 報告書の作成
DDの調査結果及びその評価について、出資者等における経営判断の資料として、又は出資等の原資の調達のために、出資者等の出資者へ提出するために、DDの報告書を作成することが一般的です。ただし、リスク評価偏重のDDの報告書は大部になりがちであり、価値評価の結果を踏まえ、価値に影響のあるリスクに絞ったリスク評価の報告書として、良い点に絞った報告書(エグゼクティブ・サマリー)を作成することも検討すべきです。
DDの書式に定まったものはありませんが、DDの目的は最終的な対応策を検討することにあるため、DD方針で定めた調査項目毎に、調査結果にとどまらず、リスク評価(リスクが顕在化した場合の影響の程度)、対応策の要否・内容等を明記した報告書とする必要があります。なお、各チームの発見事項が他部門のDDや価値算定に影響を及ぼすことが往々にしてあるため、評価に当たっては、各分野ごとのDD担当者の参加を促し、各部門の調査結果を共有しつつ協議することが有益です。