1. デュー・デリジェンス総論
(3)DDの調査範囲と知財DDの位置づけ
費用や時間的制約からDDの範囲を絞り込む上では、そもそも、なぜDDを実施する必要があるのかという点に立ち返ることが重要です。
- ① 対象会社が事業を継続していく上で大きなリスクを抱えていないか
- ② 対象会社の技術力や将来性の価値は投資額に見合っているか
例えば、自動車メーカーが、自動運転の実用化に向けて、自社開発の困難な車載カメラ用の画像認識技術を研究開発しているスタートアップ企業に出資する場合を考えます。
この対象会社が株式会社で、出資の手段(スキーム)として、出資者等が対象会社の新株を引き受ける場合には、法的な観点から、対象会社の既存の株主は誰なのか、対象会社は法律上有効に新株を発行できるのか等、いわゆる法務DDを実施する必要があります。
また、出資額を合理的に説明するためには、引き受ける新株の(将来)価値が出資額に見合うものでなければなりませんから、財務DDやビジネスDDも必要でしょう。
ほかに何か必要な調査はないでしょうか。
この自動車メーカーは、対象会社の有する画像認識技術に価値を見出しています。
しかし、もし、この画像認識技術が第三者、しかも自社と競合する他の自動車メーカー(やその提携先)の保有する特許権を侵害していたら、この画像認識技術を自社の自動車に搭載するのは困難となるか、又は追加のライセンス料の支払いが必要となるでしょう。この要素は、対象会社の特許に関する大きなリスクになります。
反対に、この画像認識技術について、対象会社が非常に強い(他社が回避が難しい、権利範囲の広い等)特許権を有してる場合には、単純な画像認識用のソフトウェアの売上げや自社の自動車への搭載以外にも、他の自動車メーカーへのライセンスや異業種(例えば、ドローン等の輸送機械)への展開も考えられます。この要素は、対象会社の価値に大きく貢献しています。
ここでは、説明を単純化するために特許権の侵害のリスクやライセンスの価値を取り上げましたが、企業価値に占める知的財産等の無形資産の比率は拡大する傾向にあります。
そのため、これまでに挙げてきた法務、財務、ビジネスDDのほかに、このような対象会社の知的財産活動についての調査と検証を行う
知的財産デュー・デリジェンス(知財DD)
がますます重要になってくると考えられます。
もっとも、知財DDといっても、特許法等の知的財産法の観点から行うという意味では、法務DDの一部とも言えますし、技術やブランドのビジネス上の価値を評価するという意味では、ビジネスDDの一部ともいえます。
したがって、必ずしも「知財DD」という形で独立したDDを実施すべきということはありませんが、対象会社の有する技術、デザイン、ブランド等の知的財産(以下「知財」といいます。)に魅力を感じて出資等を行うのであれば、少なくとも、知的財産という観点からのDDという意味での「知財DD」を実施する必要性は高いといえるでしょう。